ポップコーンの音が響く

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護られなかった者たちへネタバレ感想「震災で生まれた悲劇の人災」【生活保護の闇】

護られなかった者たちへ

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監督:瀬々敬久

脚本:瀬々敬久

   林民夫

音楽:村松崇継

主演:佐藤健

   阿部寛

原作:中山七理(原作「守れなかった者たちへ」)

配給:松竹

 

 

 

護られなかった者たちへ

本記事では「護られなかった者たちへ」の感想を語っていきたいと思います。

キャッチコピーは「連続"餓死"殺人事件。異様な事件の裏に隠された、切なすぎる真実とは―――」。

 

なお、この記事では感想を書くに当たり、映画の核心に触れるので、まだ映画を鑑賞していない方は注意してください。

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©2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会

出典:「護られなかった者たちへ」公式サイト

 

あらすじ

本作のあらすじは大津波が襲った震災の最中、2人の餓死した変死体が発見される。

宮城県警の笘篠誠一郎が蓮田智彦を相棒に事件解決に乗り出す。

震災で慌ただしい状況で捜査をしていると生活保護の闇を目の当たりにする。

 

その一方、被災の被害にあった青年、利根泰久は少女カンちゃんと老婆ケイと出会う。

はじめは心を閉じていた泰久だったが、次第に心を開いていく。

そんな時、新たな第一歩を踏み出すために泰久はケイに生きていてほしく生活保護の申請を促す。

そして、泰久も生活保護の闇にぶち当たる。

 

過去と現代の謎を追え

本編では10年前に発生した震災した宮城と10年後の宮城を舞台としています。

10年後で発生した餓死殺人事件を解決するために10年前の出来事を追うという流れで物語が進んでいきます。

 

物語の変化を見せるために二つの工夫を行われていました。

 

一つは主演の見た目を変化させること。

主演である二人、特に佐藤健の見た目を変える事で時系列を観客に過去の出来事なのか、現代の出来事なのかを分かるように工夫されていました。

 

もう一つは登場人物の入れ替え。

過去と現代の登場人物を完全に被らせない事で現在の時系列を観客に気づくように行われていました。

 

過去編では佐藤健が演じる利根泰久を取り巻く人物を中心に物語が進行します。

震災に巻き込まれた被災者がどんな生活をしてどんな苦労をしていたのかをクローズアップして当時の宮城の情景を描写しています。

 

現代編では阿部寛が演じる笘篠誠一郎が事件解決の捜査を行います。

過去編での登場人物が伏せられた形で成長した姿で登場し、過去との繋がりを徐々に明かされていく形で物語が進行していきます。

なお、本作でのテーマとなった生活保護は現代編で取り上げられます。

 

護られなかった者たちへ

ここで、護られなかった者たちへについて語っていきたいと思います。

本作のタイトルとなっている「護られなかった者たちへ」は生活保護を受け取れなかった受給者を表しています。

 

生活保護は今の生活がままならなくなった市民が頼る国のセーフティーネットとなっています。

 

本作ではその生活保護を受け取れなかった受給者の苦心が描かれます。

映画では主にそれを象徴するように3人の受給者がピックアップされます。

 

不正受給をする者たち

一人は不正受給をする者たち。

あくどい手で不正受給を行い、豪遊します。

本来は必要とする受給者に渡るはずの生活保護がこういう輩に渡ってしまいます。

 

最もニュース等で耳にする不正受給です。

こういう事態が発覚した場合、窓口担当者は受給者に対して全額返金させるか、資産の徴収に迫りまらなければならないようです。

 

映画では一人で行ってましたが、実際はきっと大勢で行くと思います。

 

受給しながら労働をする者たち

二人目人は子供の養育費に生活保護を受給しているシングルマザー。

生活保護だけでは子供の教育費を賄えないために内緒でパートをしています。

 

これもよく聞く生活保護のニュース。

生活保護は働けない受給者に対して受給するものであるため、労働が出来ると判断されると生活保護の対象では無くなります。

 

そこには家庭の事情は一切関係なく、対象であるかどうかのみ。

映画では、パートを辞めて再び生活保護の対象者となるか、生活保護受給を辞めるのかの二択。

役所の対応がなかなかドライです。

 

受給を受取らない者たち

そして、最後の一人として生活保護を受取りたくない受給者。

生活保護は国に頼るのは恥と考えていたり、親戚に迷惑にかけたくない為に自ら断ってしまいます。

主に、高齢者に多く見られる傾向となっています。

 

これを解決するために窓口担当者が同行して申請をさせようとします。

 

が、生活保護の申請には本人の意志を尊重するシステムとなっているため、申請されるまでの大きな壁となっています。

これにより、生活保護が受け取れずに孤独死へと繋る事態へと発展します。

この孤独死が謎の餓死事件が発生するきっかけとなります。

 

奇妙な餓死事件

そんな生活保護の闇を見せた宮城で餓死事件を発生します。

被害者は全身をロープとガムテープで固定されており、餓死した状態で発見されます。

 

被害者となったのは三雲と城之内の二人。

共に生活保護窓口を担当した共通点があり、事件は生活保護を受給できなかった対象者が犯人と仮定した状態で捜査が行われます。

 

事件の犯人として浮上したのは利根泰久。

かつて市役所に火炎瓶を投げつける事件を起こしたため、関連性があると思われたからです。

 

二人の主人公がここでようやく出会う事になりました。

二人は出会うなりこれまで主人公らしい一面は鳴りを潜め容疑者と刑事としての要素が強くなります。

ここら辺から刑事ドラマの要素が強くなります。

 

利根を追いつめろ

事件の犯人を利根と絞った事でひたすら利根を追いつめます。

利根を全力で追いかける笘篠の姿は格好いいものを感じましたが、その必死さに反して何度も逃げられたり、巻かれたりするのはちょっと情けないぞ…。

 

極めつけは上崎の講演会で利根に完全にしてやられる様は酷すぎるぜ。

もうサイバトロン並の警備レベルじゃないですか…。

ザル警備は基本。

 

真犯人は誰だ?

苦労の末、利根を逮捕した事で事件の全貌が明らかになっていきます。

これまで犯人と思われた利根は身代わりとして捜査をかく乱していた事が明かされます。

 

これまで必死に操作していたのは一体…?

この結末は笘篠の思い込みが強すぎたのか、利根の戦略が上手すぎたのか、どっちだろうか…?

これまでの事件を起こした真犯人の正体は…?

 

餓死事件の真犯人(ネタバレ)

そして、利根により餓死事件の真犯人が明かされました。

今回の連続餓死事件の犯人はカンちゃんこと円山幹子。

 

餓死事件を起こしたきっかけはケイの死。

生活保護の辞退させたことでケイを死なせた事を恨み、幹子は被害者である二人を同じ目に合わせました。

 

劇中で一瞬ですが、犯人の脚のサイズが24cmと映っていたので勘の良い人は犯人が利根じゃないね、と言うのが分かったと思います。

 

幹子は二人をスタンガンを使い、気絶させて犯行現場まで引っ張っていきそこでガムテとロープを使ってがんじがらめに縛り置き去りにしました。

美女にぐるぐる巻きにされる所まではOK

 

動機はケイの死(ネタバレ)

被害者となった二人は上の人間の圧力によって受給したくても出来ない現状になっており、ケイの時も受給できない状況になると分かるや否や拒否させたというもの。

 

被害者の一人である三雲が率先して津波で倒れた墓を全部直していたのは罪滅ぼしのため。

それをするんだったら受給者に生活保護を渡せよ、と思いますが、それが出来ないからこんな事をしてるんですね。

結局は大事なのは貧困者よりも上層部。

 

それにしても同じ役所の人間を殺害しておいて、何食わぬ顔で通常営業していたと思うとかなり恐ろしいぞ、この女…。

 

護られなかった者たちへまとめ

これより映画「護られなかった者たちへ」のまとめとなります。

本映画は震災時における生活保護をテーマにしています。

 

生活保護は本来、生活が生き行かない市民に対して最低限の生活をさせるための制度となっています。

 

しかし、現実は非常でこれを悪用する者、重複して支給する者と本来支給するべき市民に行きわたらない事が現実問題存在しています。

 

こんな状況へと陥っている原因は日本の生活保護の受給率の低さ。

生活保護への受給を拒む理由は日本人特有の恥(スティグマ)と窓口対応の水際作戦により受給が進まない事と語られています。

 

映画ではケイへの受給申請を実子に迷惑をかけると感じた事により生活保護の申請を自ら却下してしまいます。

 

生活保護は最後の砦として親戚への援助ができたらそちらを頼るとなっているので、本当に必要な人に届くのはかなり難しい現状なのだと感じました。

 

窓口をあの手この手で受給申請を却下していきます。

映画では受給者が若かったら就労を進める、親戚への援助を進めるなどして生活保護の受給を阻止します。

 

こういう状況になってしまった原因は市役所の上層部への無言の圧力により受給したいけど受給できない状況になっていました。

 

この映画の核となる部分なのでじっくり描写されるのですが、生活保護の闇の方がぶっちゃけ餓死事件よりも重たいです。

 

ぶっちゃけ窓口業務担当は別に悪い事をしているわけではなく、上層部から言われたようにやっているだけなのでかなり質が悪いです。

 

なお、この映画では生活保護をケチョンケチョンにしていますが、別にこの映画は生活保護を受給するなだの、役所が悪だの言いたい訳ではなく、こういう事がありますよ、と言ってるだけだと思います。

観客が中学生、高校生くらいだと変に感化されそうな雰囲気

 

このやり取りを知った利根は窓口担当者に対して激しい怒りを見せます。

利根はケイを死なせた原因を作った関係者である上崎に謝罪を求めようと抗議活動を開始させます。

 

この行動がなぜケイが死亡した時ではなく、10年経った時だったのかは真犯人が明かされる瞬間に全てが分かる仕組みとなっているのが面白いです。

 

さて、映画のもう一つの核となる餓死殺害事件の感想のまとめとなります。

餓死殺害事件は窓口対応のずさんさによる怒りで犯行を行いました。

 

実際、窓口業務は言われた通りにしているだけなのですが、受給者側から見れば受給を妨害しているようにしか見えないと感じます。

 

犯人は貧困者と同じ運命を辿らせるために被害者を個室に閉じ込め全身をガムテープとロープで縛り飢え死にさせる方法で殺害します。

 

縛られている死体の姿は軽いホラー。

すぐに殺害される訳ではなく、じわじわと命の炎が消えていくという方法は犯人の強い恨みを非常に感じます。

 

真犯人の正体を伏せるために佐藤健が演じる利根に殺人をしていると思わせる描写を映画本編全体に少しずつ散りばめていかにも佐藤健が真犯人と思わせる演出は非常に面白かったと思います。

 

しかし、それをするために利根が主役となっている10年後と現代の切り替えを単発していたため、今がどの時代となっているのかちと分かりにくかったと感じました。

 

一応、服装の変化で分かるようにしていましたが、どちらもダークトーンの服装だったのでぱっと見、分かりずらかったです。

過去編はもう少し明るい服装にしてもらいたかったです。